2017年10月15日日曜日

研究助成金と教員の面接

【教員の面接】
周囲から聞く話では、大学教員の面接で大学側が聞きたいことを伝えられていない応募者が結構いるらしいです。大学側はなるべく優秀で将来性のある若手教員を望んでいますが、採用したものの全く働かずに定年まで大学に居座られても困るため、業績だけでなく面接も重要になるようです。それに、研究者として優れている≒優秀なポスドク<優れたPI(研究者&マネージャー&教育者)であり、PIになった途端、(資金難の環境では)業績が全くでない方もおります。アイデアを自分で出せるか、研究室を運営できるか、といった視点で見られる場合もあります。これを言ってはおしまいかもしれませんが、応募先との相性も重要になります。他の教員らと(研究以外の雑用も含めて)協力的に仕事をできそうか、学生へのハラスメントの気配はなさそうか、などです。こればかりは運の要素が強いので、不採用でも深く落ち込み過ぎるのは良くないですね。

大学側が聞きたいものは多数ありますが、中でも
 ・これまでの研究
 ・これからの研究
を詳しく聞かれることが多いです。「過去にこういう仕事をしたんだ、だから将来こういう仕事でも活躍できるはずだ」といえば説得力が出るからだと思います。

これまでの研究では、ただ業績を話すだけでなく「どの部分を自分で考え、どう動いたのか」「結果についてどう考えるか」までをアピールする。この仕事を本当に自分でやったのかな?この業績はボスのお陰だったのかな?と疑われないような注意が必要です。これからの研究に対しては、「どのようにその考えに至ったのか」「自分の強みがうまく活かせるか」について具体的な研究計画とともに、実現可能性、新規性、独創性についてアピールしないと他の応募者と差をつけられないとか。要は「ちゃんとした研究者であり、自分のアイデアでしっかりと研究を進めていける」ということを伝えることが大事なようです。

今後の研究計画をうまく伝えられていない応募者は、審査員からの信頼が得られず、たとえ業績がどれだけ素晴らしくても落とされる可能性があるそうです。特に、分野外の審査員もおられるので、学会と同じトークは禁物です。研究背景は丁寧に。また、一人の審査員に厳しい質問をされ、それに答えられなくても落ちるわけではないようです。全ての審査員の質問が的確であるとは限らないことを大学側も認識しているので、偏った判断がされないように審査員は数人用意されているはずです。変な指摘や高圧的な質問が来たときの応対方法を練習しておくといいかもしれません。

一方で、大学の聞きたいポイントをしっかりと抑え、高いプレゼンスキルを活かして、口八丁手八丁で魅了する応募者もいるそうです。「業績が自分のほうが良いのに、なぜあの人が採用されているんだ」というケースについて、大学側と強いコネが事前にある場合だけでなく、応募者が面接に長けている場合があるということです。もちろん大学側がほしいのは、上手に繕える人材ではなく優秀な人材なので、業績のある方は、これまでの業績をアピールするだけでなく、『雇う側の立場を考えつつ、採用後でも活躍できること』をアピールしてほしいとのこと。

プレゼン構成の一例(発表:45分、質問:15分)
1.研究背景(5~10分)
 研究者でなくても分かるくらい一般的な内容から入る。概要を掴ませる。
 専門家もいるので大げさな発言やアヤフヤな説明は控える。
 ここで研究内容の面白さがピンとこないと、後の話を誰も聞かない。
2.これまでの研究(20~30分)
 何を達成したか。自分なりの工夫点は。どのくらい貢献したか。
 専門家向けの深い内容や詳しい考察も混ぜる。
 ここで一人前の研究者として信頼されるかどうかが決まる。 
3.これからの研究(15~20分)
 新分野を拓くアイデアを出す。かつ、実現可能な研究計画・予算案を話す。
 ここで審査員を感動させられたら、一気に採用が近づく。

研究者たるもの、どうしても2に時間を割きたくなりますが、学会発表と採用審査は違います。華々しい成果よりも、考察に重点を置いた方が良い印象を与える場合があります。信頼できない人の成果アピールほど胡散臭いものはないです。また、例え研究者として優秀でも、PIとして将来性が見込めない人は見送られます。ボスの研究の延長ではなく、独自のアイデアを考え、研究計画を綿密に練っておきましょう。「あれもできる、これもできる」よりも「これをすることで10年後世界を変えられる」というものに絞って詳しく話した方が印象は良いです。信頼、成果、アイデア・・・全て伝えるには、1時間は思っている以上に短かったです。


【助成金の面接】
初めて日本の研究助成金の書類審査に通過し、面接に呼んで頂けました。何段階も審査員を通す科研費では、尖った研究がどこかの審査段階で跳ねられる可能性が高いですが、一般の助成金は審査回数が少ないこともあり、より挑戦的な課題も採択されるそうです。

審査側からの質問内容として、
 ・ゴール設定が明確で、非常に挑戦的
 ・研究計画が具体的で、挑戦的なゴールでも実現性が見込まれる
 ・研究業績、技術および設備が豊富で信頼できる
ことを確認してきた審査員はまともだと思いました。要は、これら3つのバランスだと思います。ゴールは遠ければ遠い方が良いですが、その分、計画設計が難しくなり、また実現も難しくなるので、より多くの業績が求められます。自分のできる範囲で、可能な限り高いゴールを設定するのがミソではないでしょうか?

後で聞いた話では、助成金の審査員にはプロ意識がない方もおられるようです。例えば、数十年後の新しい産業を目指した挑戦的な課題を求めている助成金の面接で、現在流行っている分野をやらないのか言及したり、小さな言葉尻を取って否定的なコメントをしてくるようです。審査員は、応募者という人物の好き嫌いや研究内容の好みではなく、提案内容と遂行計画を見て、助成金の要綱に沿った形で厳格に決めるべきです。良い審査員というのは、全ての申請者のアイデアに対して寄り添って考え、実現性・計画性・もっと挑戦できないか、などを一緒に議論してくれる方です。それだけ一緒に考えても他の応募者の方が面白そうだから不採択、という判断なら私も納得できます。異分野であっても、上辺だけの質問しかせず、提案内容に踏み込めない程度の見識しか持たない審査員には端的に答えて、他の審査員にたくさん質問してもらうのが良いと思います。応募者自身も、貴重な時間を割いてヒアリングに挑んでいるはずです。非常に優秀な審査員も必ず一人はいるので、その方に本気の意見をぶつけて、貴重なアドバイスを持ち帰りましょう!


【おまけ】
今日のMITの学生との会話。
 MIT学生「日本の研究費どうなってるの?」
 私「学生の給料を支払わないから、米国や中国より一桁少ないよ」
 MIT学生「若手でどれくらい?」
 私「ベースは国のお金で年間200万円くらいかな。プラス助成金を取ってくる」
 MIT学生「めっちゃ効率良いな。200万円であんなに成果出てるの?どうやって?」
 私「共用設備の利用費が米国より一桁少ない。一人年間50万円あれば十分」
 MIT学生「共用設備にない装置は?」
 私「大抵は講座制を取っていて、教授の装置を使わせてもらう」
 MIT学生「え?助教はプロフェッサーじゃん。独立じゃないの?」
 私「助教は教授の言いなり。助教で新装置はなかなか買えない」
 MIT学生「助成金はどれくらい?」
 私「米国だとイ○テルで2000万円くらいだよね。日本だと○○社で年間200万円だよ」
 MIT学生「え?今、そこの会社から年間1億円出してもらってるよ」
 私「え?」
 MIT学生「普通、逆だよね…国内の大学を応援するよね…」
 私「うん…学生の給与分を払うにしても、せめて2000万円だよね…」
 MIT学生「だよね…」

日本の企業さん、米国での助成金の出し方、おかしくないですか?MITだからと足元見られていません?米国企業が大金をサポートしているのは、自国の学生の授業料や生活費にもなるからだと思うんですが…社員を送り込んでいるわけでもなく、あのラボに1億円出して得られる価値(特許など)があるとも思えないので、日本企業が米国学生をサポートしている構図でしかない。日本では、生活費が理由で大学院進学を諦めている優秀な学生もいるのに、自国の学生へのサポートはごく僅かとなると、流石に悲しい(;_:)

1 件のコメント:

  1. ジェイレックです。

    大学教員公募の応募に関するLINEオープンチャットを開設しました。

    公募への応募で採用される方法について、noteで書いた記事の紹介をしています。


    LINEオープンチャット「大学教員公募大全」

    https://line.me/ti/g2/tw8D_ABlKGzELMkKwaOScw?utm_source=invitation&utm_medium=link_copy&utm_campaign=default

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